はじめに|グリコがタイのアイス事業から撤退する衝撃

2025年7月3日、江崎グリコのタイ現地法人「タイグリコ株式会社」がタイ国内でのアイスクリーム販売を2025年末で終了すると発表しました。
2016年1月の参入から約9年間、現地市場に根づいたアイス事業が突然幕を閉じる決断は、菓子大手としてのグリコにとって大きな転機となります。
タイ市場はアジア展開の要として長らく注目されてきただけに、アイス撤退のニュースは業界に衝撃を走らせました。
国際競争が激化するなか、グリコがどのような戦略的判断を下したのか――本記事では、撤退の概要から背景、そして今後のブランド戦略までを徹底解説します。
まずは、撤退の公式概要と事業期間を整理し、何が変わり、何が残るのかを明確に見ていきましょう。
撤退の概要|タイグリコ株式会社が2025年末でアイス販売終了
販売終了の時期と事業期間
タイグリコ株式会社は、2025年末をもって同社のアイスクリーム製品全ラインをタイ国内で販売終了します。
参入は2016年1月、約9年間にわたり現地生産・販売を展開してきましたが、事業環境の変化を受けて決断が下されました。
対象商品と継続商品
- 撤退対象:すべてのアイスクリーム製品(カップアイス、バーアイスなど)
- 継続販売:ポッキー、プリッツなどの菓子類
アーモンドミルク飲料「アーモンド効果」などの健康・ウェルネス製品は継続
アイス以外の飲料・菓子事業はタイ市場で引き続き展開し、グリコブランドの強みを活かしたポートフォリオを維持します。
撤退の理由|公式発表にない深層的要因を探る
事業戦略再検討の背景
グリコは近年、海外事業の拡大を柱に掲げており、特にアジア市場での収益性向上に注力してきました。
しかし、タイでのアイス市場はローカル競合やコスト競争が激化し、利益率が低下傾向にありました。
こうした状況を踏まえ、現地法人単独では収益確保が難しいとの判断が背景にあると考えられます。
経営資源集中の方針転換
2024年12月期の連結決算では、海外事業全体の売上高は823億円(前年同期比15.6%増)と好調ですが、営業利益は83億円にとどまり、“量から質”へのシフトが急務となっています。
グリコは菓子類や健康・ウェルネス領域で高い成長余地を見込んでおり、そこへ経営資源を集中するため、相対的に低収益のアイス事業を撤退する戦略的決断を下しました。
競争激化と市場環境の変化
タイのアイスクリーム市場は、現地大手ブランドや中国系メーカーとの価格・プロモーション競争が激しく、消費者ニーズの多様化にも対応が求められています。
結果的に、輸入原料や冷凍物流コストが上昇する中で、製品差別化が難航し、収益性維持のハードルが高まったことも撤退の一因と推測されます。
江崎グリコの現況|2024年決算と海外事業の立ち位置

国内連結決算のポイント
2024年12月期の連結決算では、売上高が3,311億円(前期比0.4%減)、営業利益が110億円(同40.6%減)となりました。
国内市場ではスナック・菓子類が堅調に推移した一方、原材料費高騰や物流費増加が収益を圧迫しました。
海外事業の成長と利益構造
海外事業売上高は823億円(同15.6%増)、営業利益は83億円(同2倍)と著しい成長を遂げています。
売上高構成比は24.9%、利益構成比は75.8%を占め、海外市場がグリコの利益を牽引するエンジンとなっています。
主要拠点とグローバル展開戦略
- 中国・上海工場:菓子類を主力に東アジア全域へ輸出
- タイ・バンコク工場:アイス撤退後は菓子・飲料製造拠点として再編
- インドネシア工場:成長著しい東南アジア市場向けに増産設備を稼働
こうした拠点を核に、地域ごとの製品ポートフォリオ最適化と、ローカルニーズへの迅速な対応体制を強化しています。
タイ市場での今後の展開|菓子・健康飲料に集中する理由
ポッキーを核とした菓子事業強化策
グリコの代名詞とも言えるポッキーは、タイで根強い人気を誇ります。今後は:
- ローカル限定フレーバー開発(マンゴー、ココナッツなど)
- コラボ商品展開(現地ブランドとのタイアップ)
- ECチャネル強化による直販比率向上
といった施策で、菓子部門の利益率向上を図ります。
アーモンド効果など健康・ウェルネス領域の拡大
健康志向が高まるタイでは、アーモンドミルク飲料「アーモンド効果」やプロテイン入りスナックなど、
- 機能性表示強化
- 現地素材を活かした新商品開発(タピオカ入り、抹茶風味など)
- ジムやヨガスタジオとの提携プロモーション
を推進し、ウェルネス市場でのプレゼンスを高めます。
市場効率化とブランド価値向上のシナリオ
アイス撤退で浮いたリソースを活用し、
- 製造ラインの共通化によるコスト削減
- 広告投資を集中させたデジタルマーケティング強化
- CSR活動(学校給食支援、食品ロス削減プロジェクト)による企業イメージ向上
を通じて、タイ市場におけるグリコブランドの「効率×信頼」戦略を実現していきます。
国内外事業へのインパクト|撤退が示すグリコの将来像

収益性向上に向けた投資配分の最適化
アイス事業撤退で浮いた設備・人員リソースを、高収益領域へ再投資します。
具体的には、東南アジアで伸長する健康・ウェルネス事業や、中国・インドネシア市場での菓子新製品開発に予算を重点配分。
「儲かる事業」に集中投資することでグループ全体の利益率向上を狙います。
サステナビリティ視点での資源配分
冷凍・物流に伴うエネルギー消費の削減はESG経営の要。CO₂排出の多いアイス製造から撤退することで、環境負荷を低減しつつ、再生可能エネルギー導入やパッケージ素材の見直しなど、サステナブルな菓子・飲料生産への転換が進みます。
ブランド価値の再構築とリスク分散
アイスの撤退は一時的なブランド露出減を招くものの、ポッキーやアーモンド効果といった主力商品の伸長戦略により、「健康×楽しさ」を訴求した新しいブランドイメージを構築します。
また、事業ポートフォリオの見直しでリスク分散が図られ、市場変動への耐性も強化されます。
グローバルシナジーの加速
各国拠点間での製品・ノウハウ共有を深めることで、開発コスト抑制と市場投入スピードの両立を実現。
タイで得た製造ノウハウはインドネシアやマレーシア工場へ横展開し、新興国市場での競争力を一段と高めます。
◆ この章のポイント
- 撤退で得たリソースを「高利益×成長領域」に再配分し、グループ全体の収益力強化。
- 環境負荷低減とESG評価向上を両立し、サステナブルな経営体制を構築。
- ポートフォリオ最適化により、ブランド価値のリブランディングとリスク分散を実現。
まとめ|グリコの選択と集中が示す成長戦略
- タイのアイス事業を2025年末で撤退し、約9年の挑戦に一旦区切りをつけました。
- アイス撤退の背景には、低収益化した現地市場の競争激化と、高収益×成長領域への経営資源再配分という戦略的判断があります。
- 2024年12月期の決算では海外事業が利益の75.8%を占め、グリコの収益エンジンとなっているため、海外重点化は不可逆的な潮流です。
- 今後はポッキーを核とする菓子事業強化と、「アーモンド効果」など健康・ウェルネス領域への投資拡大で、ブランド価値のリブランディングを図ります。
- サステナビリティ視点では、CO₂排出の多いアイス製造を縮小し、再エネ導入や省エネ設備への転換を加速。ESG経営にも寄与します。
- 各拠点間のノウハウ共有と共通化で開発・製造コストを抑制し、新興国市場へのスピード展開を実現。グローバルシナジーを最大化します。
グリコの「選択と集中」は、一時的な痛みを伴うものの、中長期的な収益拡大とブランド強化を見据えた必然の意思決定と言えます。
菓子・健康飲料の主力事業に経営リソースを集中し、海外成長市場でさらなる飛躍を目指すグリコの次章に大いに期待しましょう。