
キャンプの計画を立てるとき、クマの出没が気になる人が増えています。実際、2025年度(令和7年度)のクマ被害は統計が比較できる2009年度以降で最悪の水準となりました。
結論から書きます。キャンプにおける最大の対策は、遭遇したときの撃退方法ではなく、クマを引き寄せない食料とゴミの管理です。そのうえで、遭遇時に取るべき行動と、装備の選び方を事前に決めておく。この順番が逆になると効果が出ません。
さらに2026年8月25日、環境省がクマ撃退スプレーの性能に係る推奨要件を初めて公表しました。市販品の性能差が大きいことが噴射テストで確認されたためです。持っているだけで安心できる装備ではない、という前提が公的に示された形です。
この記事では、2026年9月2日時点の環境省・消費者庁・知床財団などの公表資料を基に、キャンプでのクマ対策を事実ベースで整理します。
まず把握したい:クマ被害の現状

環境省の集計によると、2025年度のクマの出没件数は速報値で5万0,776件でした。前年度の2万0,513件から2倍以上に増えています。
| 項目 | 2025年度(令和7年度) |
|---|---|
| 出没件数 | 5万0,776件(速報値) |
| 人身被害件数 | 216件 |
| 被害人数 | 238人 |
| 死亡者数 | 13人 |
人身被害・死亡者数はいずれも過去最悪です。出没件数の都道府県別上位は、秋田1万3,592件、岩手9,739件、宮城3,559件、新潟3,528件、青森3,334件と、東北を中心に集中しました。
2026年度に入ってからも被害は続いており、環境省はクマに関する各種情報・取組のページで、その年度の死亡事故数や緊急銃猟の実施状況を随時更新しています。出発前に確認できる一次情報です。
2025年9月から「緊急銃猟」制度が動いている
2025年(令和7年)4月に成立した改正鳥獣保護管理法により、同年9月から緊急銃猟制度の運用が始まりました。市町村長の判断で、委託された捕獲者が銃によるクマ等の捕獲を行える制度です。実施には次の要件がすべて満たされる必要があります。
- クマ等が人の日常生活圏に侵入し、または侵入するおそれがある
- 人の生命・身体への危害を防止する措置が緊急に必要である
- 銃猟以外の方法では的確かつ迅速な捕獲が困難である
- 避難等により地域住民に弾丸が到達するおそれがない
日本経済新聞の2026年6月の報道によると、制度開始以降の緊急銃猟は12道県で72件、うち約6割が東北に集中しています。
ここで注意したいのは、この制度が「人の日常生活圏」への出没を想定した仕組みだという点です。山中のキャンプ場や登山道で行動する場合は、制度の外側にいるという前提で自衛を考える必要があります。
キャンプ場での基本は「引き寄せない」こと
クマを引き寄せる最大の要因は、食べ物とにおいです。知床財団のヒグマ対処法は、野営時の管理について具体的な基準を示しています。
- テントの中で食料を保管するのは絶対にやめる
- 食料の保管場所は、テントや調理・食事をした場所から100m以上離す
- 食料はビニール袋で密閉し、木に吊るすか、フードコンテナ(携帯用クマ対策コンテナ)に入れる
- テント内で調理や食事をしない。できればテントから100m以上離れた場所で行う
- 食べ物やゴミを放置しない。自分だけでなく、後から来る人まで危険にさらすことになる
知床連山の縦走路にあるキャンプ指定地(羅臼平、三ッ峰、二ッ池、第一火口)には、フードロッカーと呼ばれるクマ対策の食料保管庫が設置されています。設備がある場所では必ず使い、ない場所では自分で吊り下げるか、コンテナを持参する判断になります。
管理された「人の食べ物」の味を覚えさせない
一度でも人の食料を口にしたクマは、キャンプ場や車、ザックを食料源として学習します。個人の失敗が、その場所全体の閉鎖や、クマの捕殺につながることがあります。環境省も、人の生活圏で誘引物の除去・管理を徹底し、出没自体を減らすことが重要だとしています。
遭遇したときにどう動くか
知床財団は、距離を基準にした判断を示しています。
- 茂みで大きな動物の気配がして静かになった場合、クマが隠れてやり過ごそうとしている可能性がある。音がした方向に近づかない
- 距離が50m以上なら、手をたたいたり穏やかに声をかけながら、すみやかに通り過ぎる
- 距離が50m以内なら、引き返すほうが賢明
また、クマに対する訓練を受けていない犬を生息地に連れて行くことは危険だと指摘されています。ヒグマの出没頻度が高い知床国立公園内では、ジョギングも控えるよう呼びかけられています。
「走らない」が重要な理由
2025年8月14日午前11時ごろ、北海道・知床の羅臼岳登山道(岩尾別コース)で、下山中の26歳男性がヒグマに襲われ死亡しました。死因は全身多発外傷による失血と報じられています。翌15日、現場近くで被害者に接触していた親子のヒグマ3頭が発見され、その場で捕殺されました。
知床財団が2025年8月21日に公表した調査速報では、被害者が登山道を走って移動していた可能性が高いと指摘されています。走る動作は、クマの追跡本能を刺激するおそれがあると一般に説明されています。キャンプ場周辺の散策やトレイルランでも、同じリスクが生じます。
2026年8月に公表されたクマ撃退スプレーの推奨要件

環境省は2026年8月25日、消費者庁・国民生活センターと共同で行った噴射テストの結果を踏まえ、クマ撃退スプレーの性能に係る推奨要件を公表しました。国内流通品12種類を検証したところ、噴射距離や時間に大きな差があることが確認されています。
要件は、有効成分の表示方法と含有濃度、噴射距離・噴射時間、噴射パターン、噴射機構と安全装置、使用期限、製品表示の6項目で構成されます。報道によると、具体的な水準は次のとおりです。
| 項目 | 推奨される水準 |
|---|---|
| 有効成分(カプサイシン)濃度 | 1〜2%程度 |
| 噴射距離 | 7.5m以上 |
| 噴射時間 | 6秒以上 |
| 噴射パターン | 霧状であること |
| 安全装置 | 付いていること |
価格や見た目では性能を判断できません。購入時は製品の性能表示を確認する必要があります。
使い方を誤ると自分が危険になる
消費者庁が同日公表したクマ撃退スプレーの備え方では、次の留意事項が示されています。
- クマとの距離が5〜10m程度の状態で噴射する
- 原則としてクマよりも風上から使用する。風下では極力使わない
- 1〜3秒程度の噴射を複数回できるよう、原則として使いかけを使用しない
- 人、テントや荷物などに吹きかけない
- 安全装置は必要なとき以外は外さない。外した後はつけ直す
- 高温になる場所、子どもの手が届く場所に置かない
- 冬の低温時はガス圧が下がり、噴射距離が短くなる
- 皮膚や目に付着したら大量の水で洗い流す
- 航空機に持ち込むことはできない
とくに注意したいのが、テントや荷物に吹きかけないという点です。忌避剤のように事前散布すると、かえって危険を生みます。また遠方のキャンプ地へ飛行機で移動する場合、スプレーは機内にも預け入れにも持ち込めないため、現地調達やレンタルを検討することになります。
出発前に確認したいこと
- 環境省のクマに関する情報(住民・利用者向け)から、都道府県別の出没情報を確認する
- 目的地の自治体がクマ警報・注意報を出していないか確認する
- キャンプ場の公式サイトやSNSで、出没情報や利用制限が出ていないか確認する
- フードロッカーの有無、ゴミの持ち帰りルールを事前に把握する
- 単独行動を避け、複数人で行動する
- 朝夕の薄暗い時間帯や、見通しの悪い場所での行動を減らす
- 音の出るもの(鈴、ラジオ、声かけ)を用意する
よくある質問

クマ鈴があれば安全ですか?
鈴は自分の存在を知らせて遭遇を避けるための道具であり、安全を保証するものではありません。沢の音が大きい場所や風が強い日は音が届きにくくなります。食料管理や行動時間の選択と組み合わせて使うものです。
テントの中に食料を置いても大丈夫ですか?
知床財団は「絶対にやめる」としています。保管場所はテントや調理・食事の場所から100m以上離し、密閉して吊るすかフードコンテナに入れることが推奨されています。
クマ撃退スプレーはどれを買っても同じですか?
違います。環境省が2026年8月に実施した噴射テストでは、市販品の間で噴射距離や時間に大きな差が確認されました。推奨要件(カプサイシン濃度1〜2%程度、噴射距離7.5m以上、噴射時間6秒以上、霧状噴射、安全装置、使用期限の表示など)を満たすかを性能表示で確認してください。
クマに遭遇したら走って逃げてもいいですか?
推奨されていません。2025年8月の羅臼岳の死亡事故では、被害者が登山道を走っていた可能性が高いと知床財団の調査速報が指摘しています。知床財団は、生息地でのジョギングを控えるよう呼びかけています。
キャンプ場にクマが出たら、緊急銃猟で対応してもらえますか?
緊急銃猟は「人の日常生活圏」への侵入などの要件を満たす場合に、市町村長の判断で実施される制度です。山中の施設や登山道での遭遇がこの要件に当てはまるとは限りません。制度に頼る前提ではなく、自衛が基本になります。
まとめ|順番を間違えないことが最大の対策

- 2025年度の出没は5万0,776件、人身被害216件・238人、死亡13人で過去最悪
- 被害は秋田・岩手など東北に集中している
- 2025年9月から緊急銃猟制度が運用開始。ただし対象は「人の日常生活圏」
- キャンプの基本は、テント内に食料を置かず、100m以上離して密閉保管すること
- 遭遇時は、50m以上なら音を出して離れ、50m以内なら引き返す
- 走る行為は避ける。羅臼岳の死亡事故でも走行の可能性が指摘された
- クマ撃退スプレーは性能差が大きい。噴射距離7.5m以上などの推奨要件を確認する
- スプレーはテントや荷物に吹きかけない。航空機には持ち込めない
装備を増やすことよりも、食べ物の置き方を変えることのほうが効果が大きい場面は少なくありません。引き寄せない、近づかない、走らない。この3つを守ったうえで、装備を正しく選ぶ順番で準備してください。
※本記事は2026年9月2日時点で公表されている情報を基に作成しています。クマの出没状況や自治体の警報、施設の利用制限は日々変わります。出発前に必ず、環境省および目的地の自治体・施設の最新情報をご確認ください。